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放課後の鐘が鳴るまで、僕たちはよく語り合った。 本のこと。未来のこと。 そして、まだ名前のなかった僕たち自身のこと。 ――そんな頃の話を、少しだけ。 ---
月が綺麗ですなぁ、姫様。 ……月見酒? いやいや!姫様に酒なんぞ飲ませたら、 俺が旦那に殺されちまう。 代わりに団子でもどうです? ほら。 ……そんな顔しねぇでくだせぇよ。 別に、俺が食いてェから 買ってきたわけじゃねぇですぜ。 姫様が好きそうだったから。 ……ああ、そういう顔するんじゃねぇ。 礼なんざいりませんって。 俺が勝手にやってることですから。 それに、姫様が嬉しそうにしてりゃあ、 俺ァそれで十分なんです。 ほら、団子が固くなっちまう。 月より先に食べちまいましょうや。 ---
『終わり』というものは、存外あてにならない。 頁を閉じても物語は続くし、 言葉を交わした時間は、 記憶の中で何度でも読み返せる。 ……一万頁分の言葉を、君と読めたこと。 僕は、それをなかなか幸福なことだと思っているよ。 さあ、マスター。 栞を挟んでおこう。 まだ、読み終えるには早いからね。 --- P.S. ああ、そうだ。 近いうちに、僕の担当編集者――ロマンとも話せるようになるらしいよ。 僕が頁の向こうばかり眺めていると、 あの男はいつも、こちら側の話をしてくる。 作家と編集者というのは、 案外そういうものなのかもしれないね。 彼の編集談義も、悪くないさ。 気が向いたら、覗いてみるといい。 では、また。 ---
本を読む場所って、結構大事だと思わない? 図書館でも、喫茶店でも、布団の中でも。 俺さぁ、内容だけじゃなくて、 「どこで読んだか」まで覚えてる本が結構あるんだ。 昔読んだ本を見つけて、「これ雨の日の電車で読んでたな〜」なんて思い出したりするんだよね。 そう考えると、本って不思議だよな。 物語だけじゃなくて、 その時の匂いとか、天気とか、 一緒にいた人まで連れて帰ってくる。 だから君も、お気に入りの一冊があったら、 好きな場所で読んでみるといいよ。 きっと後になって、 本を開くだけでその日のことを思い出せるからさ。     …………さてと。 いい話もできたし、 俺はレオの様子見に行ってくるよ。 あいつ、また飯抜いてそうだからな。   じゃ、また来るよ。 ご馳走様! ---
盗んだもんは、いつかなくなる。 金は使えば減る。 飯は食えばなくなる。 宝だって、売っちまえばただの金になる。 だから俺ぁ、 何かを大事にするってのが苦手なんですよ。 持ってたって、失うだけですからねぇ。 ……なのに。 月だけは、毎晩そこにある。 昨日もあった。 今日もある。 明日だって、きっと浮かんでる。 盗めねぇくせに、なくなりもしねぇ。 ずるいもんですなぁ。 ……ああいうのを見てると、たまに思うんですよ。 もし俺にも、失いたくねぇと思えるもんが出来たら。 俺は…どうするんでしょうな。 盗んで懐に入れるのか。 それとも… 盗まれねぇように、ただ眺めてるのか。 ---
庭の花が、少しずつ増えてきたんだ。 手入れをしているつもりはあるんだけど、 どうにも僕は、庭仕事が上手じゃなくてね。 気がついたら好き勝手に伸びていたり、 思っていた場所とは違うところから芽が出ていたり。 でも、そういうのも悪くないと思ってるんだ。 花って、自分で咲く場所を選べないでしょう? 風に運ばれたり、鳥に種を運ばれたり。 誰かが植えた場所から、 ずっと遠くへ行ってしまうこともある。 それでも、そこでちゃんと花になる。 ……なんだか、いいよね。 君も、あまり自分で自分の居場所を決めすぎなくていいと思うよ。 思っていた場所じゃなくても。 予定していた道から外れてしまっても。 そこで少し休んで、 気が向いたら、また歩けばいい。 僕はね、そういう君を眺めているのが好きなんだ。 綺麗に咲いていても。 少し元気がなくても。 そのままでいいよって、 言ってあげたくなる。 ……ああ、でも。 花を摘むときは、ひとこと声をかけてあげてね。 僕はそうしてるんだ。 昔からの癖でね。 ---